こんにちは。私もBBCのLiveをオンラインで見ていました(東京で)。みなさまのご回答、特にid:pahooさん、id:markIIさん、id:albertusさんのご回答に付け加えるべき何かがあるかというと……という微妙な感じですが、長文で投稿します。
第一には声にも言葉にも力のある演説で、言語的には英語の一人称複数の we の力にすっかりやられてしまいました。
全体的には「歴史の新たな1ページ」という感情というか感慨を盛り上げる「名演説」だった、という印象です。(GWBの演説は教材に使えるとは思えないけど、これは使える。)内容は私の苦手な「アメリカ」を濃縮したようなものだったにも関わらず(私もアレルギー持ち)、胸に迫ってくるものがありました。聞きながら、学生時代に「英語の教材」として接したマーティン・ルーサー・キングやJFKの演説の「型」が見えたんですが、これは「アメリカ人にとっての歴史」とは何か、という点で検討できると思います(リアルタイムで聞いてるときは、ただ引き込まれたのですが)。あと、BBCの開票速報で、マケイン演説とオバマ演説の間ほぼずっと「初の黒人大統領誕生に熱狂するアメリカ人の様子」を非常に詳しくレポートしていたので、よけいに「歴史的瞬間」な気分が盛り上がったのかもしれませんけど。
演説の内容は「アメリカはダメになってなんかいない!」で要約できるし(失礼)、オバマになったからって何かが変わるかという点では私は非常に懐疑的なのですが、それでも「ついに!」という感慨だけは非常に大きかったです。Out of proportionと言いたくなるくらいに大きかった。「ついにアフリカンが!」という感慨と、「ついにGWBの終焉が!」という感慨と……マケインだってGWBではないのだからかなり不合理なのですが、これが「演説」というものかなあ、と。テクスト化されたものを読むのとはちょっと違って、内容とか意見とか主張は別にして、単に「生の言葉」として引き込まれるものでした。
というふうに考えると、やはりここで1997年のトニー・ブレアの "Britain deserves better" を思い出さないわけにはいきませんよね。あれは東京でテレビで見ただけですが、私はひどく心動かされました――今となってはかなり「恥ずかしい」のですが。(^^;) あれも「停滞から変化へ、みなで力をあわせ、希望を持って」の演説です。こういう演説は「時代のニーズ」と言えるかもしれないし、「いつの世も歓迎される」と言えるかもしれない。そして、ある程度の能弁家なら「すばらしい演説」にすることができるのではないかと思います。
それから、pahooさんも述べておられますが、小泉純一郎の演説にも似たものがありました。私は小泉演説を生で聞いたことがありますが(2005年総選挙時)、聞き手の「共感の本能」みたいなもの(そんなものがあるのかどうかは知りませんが)に働きかけ、場の空気を動かすんです。内容がどうだという以前に、人々の「そうだ、そうだ」と言いたい気持ちが揺り動かされ、反対意見を持っている人にも途中で聞くのをやめさせない。むしろ「それも一理ある」と思わせる(テキストで読むとそうでもない)。「雄弁」とはこういうことなのだろうと思いました。
同様の印象を受けた演説に、2007年5月の北アイルランド議会再起動時のイアン・ペイズリーの演説があります。このときは、ブレアやバーティ・アハーン(アイルランド共和国首相)らも「ご挨拶」程度であるにせよ演説を行なったし、マーティン・マクギネスの非常に力強い、convincingな演説もあったのですが、ペイズリーの演説が最も胸に迫ってきました。私はイアン・ペイズリーという人物はまったく信頼できないと思っていたにもかかわらず、です。そして最後には「この人なら」という「希望」のようなものすら感じました(数秒後に「いや待て」となりましたが)。ちなみにペイズリーは政治家である以前に宗教家であり(ファンダメンタリストで、自分で教会を設立した人物です)、政治活動家でした(1960年代にカトリックに対する攻撃と、「カトリックに対する譲歩」への抵抗を、言葉で煽動していました)。
話をオバマに戻すと、私は日本時間13:00の「オバマが273人獲得」の1時間ほど前から開票速報を見ていて、オバマ演説のずっと前から「ブッシュの共和党の終わり」をひしひしと感じてました(スタジオにジョン・ボルトン)。結局のところ、人々はあれに飽き飽きしていたのではないかと思います。言葉を変えれば、ブッシュの共和党の言葉はもう人々に届かなくなっていた、彼らの言葉は人々が聞きたい言葉ではなかった、そして、オバマの言葉が人々の聞きたい言葉だった、ということではないかと。
ドイツなどでオバマが受けているのも、おそらく根は同じだと思います。GWBが見せる「アメリカ」は、「アメリカってこんなふうだっけ?」みたいな感覚をもたらすものでした。一方でオバマは、そのルーツも、たどってきた道も、ほとんど典型的と言えるほどに「アメリカン・ドリーム」で、「アメリカってこうなんだよなぁ」というイメージに合う。別な言い方をすると「完璧なアメリカ人」。アメリカ人にとってはan American leader we can be proud ofになりうるし(その点ではマケインも個人としては互角かも)、外国人にとっては「私たちが見たい『アメリカ人』」なのだろうと思います――この人なら「french fryをfreedom fryに改称する」とかいった子供じみたことはやらないだろう、みたいな。あまりに理不尽なGWBの後でオバマの言う「私たちアメリカ」は、「だからドイツもアメリカになれ」ではなく、「しかしドイツはドイツだ」を意味する、という当たり前の安心感のようなものを与えているのかもしれません。(あまり根拠のない勝手な私見ですが。)それがchangeを実感させる。
っていうか、これは単に「前がひどすぎた」ってことかな……そういえば小泉純一郎の前は、支持率1桁の森喜朗でした。トニー・ブレアの前はとにかく「退屈な」(←英国では最低の評価)ジョン・メイジャーでした。(メイジャーは、あとから冷静に見ると、そこまで悪くはないと思うんですけど、個人的には。)
でもサラ・ペイリンを超える「ひどい」はなかなかいないですよね……アフリカって「国」じゃないのねとか、NAFTA加盟国が答えられないとか、選挙が終わって封印が解かれたみたいでいろいろ出てきています。
ふと思ったんですが、これがヒラリー・クリントンだったら……「米国初の女性大統領」ったって、欧州は女性が政治トップになるのはもはや珍しくないし(「鉄の女」から約30年、今はドイツも女性首相だし、フランスももうちょっとで女性大統領になりそうだった)、単に「アメリカ」の視野の狭さ(閉鎖性)が際立っただけだったかもしれませんね。特に根拠はない私見ですが。
というところで、無駄に長文で失礼! (……とウィンクでごまかす)
米語嫌い、「いわゆるアメリカ的な押し付けがましさ」アレルギーの私でさえ、この勝利演説には心を動かされました。
ベルリンでは公式発表で20万人の人が、まだ候補に過ぎなかった彼の言葉を聞きに集まりました。私もその場にいましたが、早い段階で入場規制がかかり、会場となった6月17日通りに入りきれないほどの人の入りと、聴衆の中の大統領選とは直接関係のない非アメリカ人の若者の多さに驚かされました。
「ヨーロッパ人」がこれほどまで積極的にアメリカ大統領候補への支持を表立って表現したことは、私が知る限りありません。ドイツ人やフランス人(!)がオバマバッヂをつけているのを街で頻繁に見かけました。
個人的にはこの選挙の空気は、1994年の南アフリカ初の全人種参加選挙とネルソン・マンデラ率いるANCの勝利や、より近いところでは1997年に労働党を率いたトニー・ブレアの「地すべり的勝利」の際のそれ(hype)を髣髴とさせます。
名演説の条件 ~ 語れる十二人の男たち ~
詩のように語り、書くように伝える。
三段論法を遵守し「であるなら、でなければならぬ」で結ぶ。
人心掌握の心理的条件を満たし、後世の分析に耐える。
アントニウス《追悼演説 BC-44.0316 Rome》
大石 内蔵助《討入宣告 17030130 赤穂》元禄15.1214
マッカーサー《引退演説 19510419 America》
リンカーン《人民演説 18631119 The Gettysburg Address》
ルーズベルト《炉辺談話 19330312 VOA America》
ケネディ《就任演説 19610120 America》
ヒトラー《ドイツ国民への訴え 19320731 Germany》
マルコムX《最後の演説 19650221 America》
オバマ《勝利演説 20081105 America》
美濃部 達吉《釈明演説 ~ 一身上の弁明 ~ 19350225 貴族院本会議》
斎藤 隆夫《粛軍演説 19360507 帝国議会衆議院》
昭和 天皇《玉音放送 19450815 NHK放送局》
http://public-domain-archive.com/speech/speech.php?target=11
歴史的演説
http://d.hatena.ne.jp/adlib/20081105
黒白決着 ~ 暗馬が負印に勝った ~
もしかすると時代のニーズなのかもしれません。shimarakkyo さんの真摯なコメントを拝見して、そう感じます。
日本がバブルの時、「腹の底から自分の言葉で話している」人がいても、だれも耳を傾けませんでした。おそらくアメリカでも同じでしょう。そして、中国やECでも同じような気がします。
でも、いまは違います。
こんな時代になってしまいましたが、shimarakkyo さんのように感じる人が多くなることで、世界はこれ以上悪くなることはないと信じます。
ただ、あのオバマさんの名演説でさえ裏読みしてしまう不心得者(私のことです)が、少人数ながら存在していることを覚えていてやってください。
別に彼を嫌っているわけではないですが、私の心を動かせるのは家族の笑顔だけ(なんちゃって)。
あまり空気読めてなくて申し訳ありません。
オバマ氏は貧困層の心を読んだ事が熱狂的に受け入れられたのだと思います。オバマ氏が当選すると、貧困層がお金持ちになれるとと幻想させた事もあると思います。
Yes We Can
というスローガンの元、ヒットラーが若者を熱狂させたのと近いかもしれません。それがベルリンでも人気をよんだのでしよう。
インタビューで「子供に努力すれば、大統領になれると教えるわ」と言う言葉が印象に残っていますが、みんなが大統領になれる事はありません。そこがオバマ氏の隠れた危うさではないでしようか。
たまたまIHTを見てみたら、「その点」についての映像レポートがありました。4分くらいです。
A Change Beyond US Shores:
http://link.brightcove.com/services/player/bcpid959009704?bclid=1350269312&bctid=1902498796
IHTだからフランスなのですが、パリの米国大使館の朝食会、前文化相ジャック・ラング、
ジャーナリストのクリスティーン・オクラン、パリで活動する法律家さん(中央アフリカ共和国出身)。
全体的に、4年前のanybody but Bushの願いがようやくかなった、ということかなあ、と思います。
取り急ぎ、お答え頂きましたid:pahooさん、id:markIIさん、id:albertusさん、id:NON_NONさん、id:powdersnowさん、id:nofrillsさんには再度ポイントの送信で対応させて頂きます。本当にすみませんでした!
ポイントありがとうございます(御礼遅くなりましてすみません)。
ご返信は、お考えがまとまったときに、いつでもかまいませんので。(^^)
ここでは気づかないかもという場合は、ブログの記事(回答中の「BBCのLive」のリンク)に
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