稜堡式城郭の設計思想において、「壁が高いと敵の大砲の的になるので壁は低くつくられた」的な解説を随所で見かけるのですが、壁が高いことにどういうリスクがあるのかイマイチわかりません。
それまでの堅くて薄い石の壁は砕けて危ないから、厚めかつ軟かい土工にする、という思想は分かるのですが、なぜ城壁の「高さ」を減じないといけないのかがよくわからないのです。
素人考えですが、「高くて厚い壁」が作れればなお良いのではないかと。
例えば、函館五稜郭において、攻城側の大砲の的になるから高い建物を建てなかったとか、屋根の上に楼閣(見張り台)を作ったけど戦術上まずいということで壊したりしてますが、当時、どういう理屈でそうしているのかがわかれはすんなり理解できそうな気もするのですが・・・。
それは二次被害を利用した戦法を防ぐためだと聞いたことがあります。
古代の城壁は組積造(masonry)で、重い石をたくさん積み重ねて作られていて、
そういう構造の城壁や高い城壁や建物がある場合、
大砲で遠方からでも狙いを定められやすく、
大砲によって崩し落とされた重い石の下敷きになって二次被害が拡大します。
低い壁を越えて飛んで来た大砲の弾一個が直接当たる人数は僅かですが、
大砲によって高い組積造の城壁や建物の石がたくさん上から崩れて来た場合は、
よりたくさんの人々が危険にさらされます。
これを利用されて、敵に大砲が遠くから石造りの高い建物や壁をわざと狙われて
崩された場合、高い所からたくさんの重い石が頭の上に落ちてきて、
より多くの人達が下敷きになったり、死傷する二次被害が大きいです。
また、同じ大きさの石でも、高い所から頭の上に大量に崩れ落ちてくる場合と、
低めから横に向かって少しだけ崩れてくる場合では攻撃力が異なります。
その戦法を使った砲撃に対抗するために、大砲の砲弾をめりこませられる
土を使った要塞などが登場し、また、大砲が狙いやすい高い建物が崩れて
拡大する二次災害を軽減するために、建物全体を低くしたそうです。
また、同じ量の資源(石材と人手など)しかない場合、
城壁を低くした方が厚くて丈夫な壁が短期間で作れます。
エジプトのピラミッドなどでは石材を遠方からも運んでいましたが、
運送技術がそんなに発達していない時代に、
同じ土地にそんなに豊富に天然資源があるかといえば、
そうとも限らないのです。
もちろん、完全に崩されないほどの技術と豊富な資源と時間があれば、
高くて厚い丈夫な壁も良いのかもしれませんが、
出入り口や通気性などの問題もあるので、
昔の技術では、構造上、大砲で出入り口などを崩されて
中に閉じ込められてしまう可能性があります。
また石造りの建物が普通の状態で崩れにくいように、
上の方の階にいくにつれて壁が薄く軽めに作られているものもあり、
昔の高い建物の上の部分はもろい構造になっていたこともあります。
少し前にイタリアのラクイラで地震があった際に、
多大な被害が出ましたが、地震そのものよりも
古い石造りの建物が崩れた二次被害によるものでした。
http://en.wikipedia.org/wiki/Defensive_wall
Existing ancient walls are almost always masonry structures
「現存する古代の城壁のほとんど常に組積造である」
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%B5%84%E7%A9%8D%E9%80%A0
組積造は構造上、開口部を大きく取れず、高層化も難しい
(「組積造の欠点と補強」より)
ヨーロッパの古城を訪れた際に聞いた話なので、ソースを探していると、
同じようなことを書いている人のページがありました。:
http://blogs.yahoo.co.jp/maimaisuzutyan/folder/1171214.html?m=lc&p=2
・大砲の砲撃に対抗するため土を使った要塞が登場し、大砲は高い建物を狙いやすいので対抗するために建物全体が低くなった。土は大砲の砲弾をめり込ませて転がったりする2次被害を軽減させた。
※稜堡式城郭というのが何ぞや、という点については以下参照ください。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%98%9F%E5%BD%A2%E8%A6%81%E5%A1%9...
http://www5a.biglobe.ne.jp/~tsukuba/Ryo/Html/Index.htm
補足:
今自分で予想しているのは
1)壁が高いことで、砲術論的に不利となる何かがある。
2)壁は高くて厚いに越したことはないが、高さはさほど重要ではなく建造コストや期間の問題で厚さを優先した。
あたりです。
http://www13.plala.or.jp/are/hetakuso.html
壁が低くなっていく理由はWikipediaの「主な実例」の項に書かれている理由の通りではないでしょうか。
>(低い城壁で)雲梯を防御できること、さらにカーテンウォール(薄く高い石の城壁)よりも多量の砲撃を防ぐことがわかった。
質問者のおっしゃる通り、「素人考えですが、「高くて厚い壁」が作れればなお良い」のでしょうが、
>予算を間に合わせるために
とあるように予算には限りがあるのでぶ厚くしたぶん高さを下げなければならないのではないでしょうか。
また、城壁を高くすれば弓矢からは守れるでしょうが、大砲の玉は仮に「高くて厚い壁」だったとしてもそれを越えて打ち込めます。大砲の発達により高い城壁のうれしさが減ったのではないでしょうか。