クリスマス企画の第5日目です。
ルール等、詳しくは http://q.hatena.ne.jp/1197051779 を参照ください。
企画に応募された9名は、全員、参加者Aとして参加いただけます。
また応募しなかった方々も参加者Bとしてなら、だれでも、いつでも参加できます。
参加者Aには、ビンゴカードを1枚ずつWeb上に配りました。
http://www.nurs.or.jp/~lionfan/kikaku_2007_christmas/index.html
今回のキーワードは「教会」です。
それでは「キーワード+あなたの好きな言葉1つ」で
短い小説をつくり、この質問に答える形で応募してください。
締め切りは12/22(土) 23:59までです。
キーワードを明示することも忘れずに。
あと簡単に言及できるよう、小説にタイトルも付けてください。
小説の行数に制限はありません。それでは熊本に行ってきます!!
次回の更新は博多のホテルからになると思います。
キーワード:教会/大掃除
タイトル:僕はコッカイ君
僕のあだ名は「コッカイ君」だ。
政治家が集まる「国会」じゃない。罪を告白する「告解」だ。と言っても僕が罪を告白する訳じゃない。
そんなあだ名をつけたのは、小学生の頃、毎週日曜日に教会に通っているという女の子だった。
「皆の話を受け入れるから、コッカイ君ね」
今思うと、あの子も意味を完璧に理解して言っていた訳じゃないんだろうなぁと思う。
なにしろ、告解なんて大げさな看板の割に僕が受け付ける話と言えば、なにしろ中学生のこと、他愛のない--本人たちは大真面目だけど--相談事ばかりだ。
好きな人ができた、親と喧嘩した、飼い猫が家出した・・・。
だったら「相談君」でもいいような気がするのに、僕は告解君と呼ばれ続けていた。一度定着したあだ名というのは、もう、その理由なんて関係なく呼ばれ続けてしまうものなのだ。
告解君・・・世の中にはそういう役割を自ら進んで手に入れる人もいるようだったけれど、僕の場合はそうじゃない。かなり消極的な告解君なのだ。
それどころか、僕が誰かに相談をしたくてたまらない。
先月の席替えで隣の席になった加奈子ちゃんのことについてとか。
「・・・って訳でよぉ、俺、加奈子に告ろっかなーと思うんだよな。どう思う!?」
「いいんじゃないかな」
人気のない放課後の教室で、僕は例によって相談・・・告解君になっていた。
告解君はNOを言わない。ただYESと言って、相手を励ますのが仕事だ。
「山田なら、加奈子ちゃんも喜ぶよ」
「だよなー。最近、加奈子、俺のことよく見てる気がするんだぜ、マジ」
山田は鼻の頭をこすりながら頷いた。
「よっしゃ!コッカイに相談してよかったぜ。不思議だよな~、お前と話すと、すげー気分がすっきり!まるで掃除の終わった部屋・・・それもただの掃除じゃねーな。大掃除だ!大掃除した後みたいにすっきりするんだよ」
「はは・・・」
「マジ、サンキュ!」
「いいよ、別に」
僕はきっと浮かない顔をしていただろうに、山田は気がつかないようだった。そのまま教室を出て行こうとする。すると、入れ違いのように加奈子ちゃんが現れた。
山田は顔を輝かせた。僕の胃はキリキリと痛んだ。
「あっ、加奈子、俺、話が・・・」
「ごめん、後にして。私、コッカイ君に話があるから」
「そっか」
山田は僕に目配せして教室を出て行った。今度は僕と加奈子ちゃんが二人きりになった。
僕はどきどきした。胃はキリキリし続けていたけれど。
加奈子ちゃんは何度も出入り口を見て、まるで山田の影を探すような目つきをしていた。
「な、なに?なにか相談?」
「うん・・・恋愛相談なんだけど、いいかなぁ?」
僕のどきどきはアッサリ静まって、代わりに胃の痛みが倍増した。
「もしかしたら、ばれてるかもしれないけど・・・」
恥ずかしげな加奈子ちゃんを見ていると、さっきの山田の自信ありげな表情が浮かんだ。
--最近、加奈子、俺のことよく見てる気がするんだぜ、マジ。
聞きたくない。
いくら僕が「告解君」でも、好きな子の恋の相談なんて、絶対聞きたくない!
僕は加奈子ちゃんの言葉に口を挟んだ。
「相談なんて必要ないよ」
「え?」
「だって両思いだから」
僕はそれだけ告げて教室から飛び出そうとした。ところが、学ランの裾を思い切り掴まれてしまって、僕はつんのめった。
「・・・っとと!」
「本当!?」
加奈子ちゃんの弾んだ声が僕には苦しかった。僕は前を見たまま、加奈子ちゃんの方を振り返りもせずに頷いた。
「ああ、だからさっきの山田も、君と同じ相談だったんだよ」
「・・・?なんで山田君が関係あるの?」
「?だから、山田が君に告白したいって・・・」
「・・・私は、コッカイ君に告白しに来たんだよ」
「・・・え?」
「山田君は、関係ないよ」
僕はパニックに陥った。
「え、あれ、だって、山田の奴、加奈子ちゃんがよく俺の方見るんだーって・・・ええ?!」
「それは・・・山田君が、コッカイ君の隣の席だからだよ。私は、山田君じゃなくてコッカイ君を見てたの」
「え、ええ!?」
そう言われれば、先月の席替えで、右から山田、僕、加奈子ちゃんという並びにはなっていたけれど。でも、まさか僕を見ていたなんて・・・。
「・・・山田君のことはひとまず置いておこう」
加奈子ちゃんは顔を赤くして、両手で『置いといて』の仕草をした。
「コッカイ君の返事が聞きたいな」
僕は告解君だ。NOなんて言える訳がない。
もちろん、告解君じゃなくなって、当然、答えはYESしかない。
タイトル:ご乗車(キーワード:教会/携帯電話)
バスに揺られていた。
目的地は終点。
短い時間だが、バスの旅を楽しむことにしよう。
時刻は夕方のラッシュ時間帯。
帰宅途中の会社員に混じって、買い物帰りの人も多い。
車内はかなり混雑していた。
しかし、駅からのバスである。
一人、また一人と降りていく。
ふと、流れる景色を眺めていると、教会が目に入った。
クリスマス前とあって、教会前は華やかなクリスマスイルミネーションで彩られていた。
徐々に乗客が少なくなり、ついには一人になった。
一人きりになった車内。エンジン音とアナウンスだけが車内に響き渡る。
「車内では携帯電話の電源をお切りください」
というアナウンスが、無意味のように思える。
暗闇の中、一台のバスが走り抜けていく。
終点に着いた。
バスを降りた。
バスは『回送車』と表示して、来た道を帰っていく。
エンジン音は、すぐに聴こえなくなり、辺りは静寂に包まれた。
誰もいないバス停。家の明かりも少ない。
そして、あることに気がついた。
「あ、乗るバス間違えたわ」
静寂に包まれたバス停。
バス停には『ご乗車ありがとうございます』というステッカーが貼ってあった。
何となく、皮肉に感じた。
kumaimizuki様、ありがとうございます。
日常のなにげない一こまが鮮明に切り取られていて、上手いと思いました。
タイトル 「準備」 キーワード: 見つけてね(簡単)
「はい、君の分。」
「おい、こんなにあるの。」
「しょうがないよ、俺のもこんなにあるんだから。チェックチェック。」
「はいはい、やるよ。餌の手配。ラットの調教、会場のセッティング、と。」
「リストアップおわった?」
「まだまだ。だれだ、こんな企画考えたやつ。」
「俺じゃないから。」
「まあいいや、えーと、椅子の手配。それから飾りつけだな。おーい、そこ電気つけっぱなし。消せ消せ。節電だよ節電。飾りつけまでチェックしたんだっけ。」
「話しかけるな。」
「リストアップ終わった?」
「まだだって。しおりの印刷、ちらしの印刷、どこで配るのって、考えとけよ。これ、ヨーコに差し戻し。ポスター印刷って印刷ばっかりだな。プリントするやつってだれだ、あ、俺か。」
「そこ、ボケなし。」
「変なところ突っ込むな。仕事しろ。」
「お前もなー。」
「差し入れだよー。」
「おお。」
「待ってましたょ。」
「ありがと。イツモスマナイネェ~」
「そいつは言わない約束だよ、おとっつぁん。」
「なあ、間に合うのかな。」
「さあ。」
「まあ、何とかなるんじゃない。」
「おい、ペットボトルでジャグリングするなって。」
「空のヤツでやれよー。」
「練習練習。」
「えー、そんなことも出来るのー。すごーい。」
「おい、褒められてるぞ。」
「てれるなー、親父にも褒められたこと無いのにぃ。」
「似てねー。」
「誰の真似?」
「ごめんな、またイブの夜潰しちゃって。来年はきっとな。」
「ううん、楽しいから。また来年もここでいいよ。みんなの笑顔見てるの楽しいし。」
「ありがとな。」
こうして、小児入院病棟のイブイブの夜が更けていく。
『地元ボランティアによるクリスマスイベント』(うわーへたくそな字だな)
開始まで、あと10時間。
もうひとがんばりだな。
============
えー、キーワードは、「教、会」と「電。飾」です。
さて、問題です。登場人物は何人でしょう?
(実は作者にもわかっていない)
takejin様、ありがとうございます。
なんか「はてな」が不調だったみたいですね。
タイトル:blur
「大西先生、まだ残られてるんですか?精が出ますね。」
数学教師の片山がコートを羽織ながら声をかけてきた。
「え、あ、はい、これだけはやってしまおうかと思って…」
手元のテスト用紙を示してあいまいに笑う。
あまり無理しないでくださいよ、などといいながら職員室を出て行く片山に恭子は軽く手を振った。
今日は12月21日。
明日からクリスマス・イブまでは3連休ということもあって、生徒たちはもとより教師たちもどこか浮ついていた。
特段の予定がない自分には関係ないことだけれども。
軽く頭を振ってテスト用紙に向き直る。
「ん、次は坂巻か。相変わらず線が細い字ね。」
問 次の( )にあてはまる語句を答えなさい。
イタリアの詩人ダンテの( 新曲 )はその後多くの国で翻訳され、日本では森鴎外により紹介されたのが始まりだといわれている。
「…なんでニュー・リリースやねん。」
小さく声に出して独り言を言ってしまう癖は長い一人暮らしで染み付いてしまったものだ。
大学、そして社会人と気づいたらもう8年も経っていた。
少し迷ってから、恭子は△を付け、片山が帰っていった校庭の方を見る。
窓に映る自分が、恭子を見つめ返してきた。
採点の終わってないテスト用紙で膨らんだバッグを肩にかけ、恭子は足早に家に向かった。
天気のいい今日は、早くも気温が下がってきている。
明日の朝はきっと冷え込むだろう。雨ではなく雪になるかもしれない。
田舎にいるときは雪なんて当たり前だったのに、最近はホワイト・クリスマスなんていう言葉にちょっと魅かれてきていた。
そのわけが単なる懐かしさなのか、人恋しさなのかは分からないけど。
いつもの帰り道にあるくすんだ教会も、この時期ばかりはイルミネーションで自分を飾り立て、なんだかはりきっている。
中で誰かが練習をしているオルガンの音も漏れ聞こえている。
みんな、特別な日の奇跡が起こるのを期待している。
「大西先生っ」
ぼんやりとイルミネーションを眺めていると、突然ツリーの向こうから声をかけられた。
「あ、坂巻?こんなところで何してるの。受験勉強はいいの?」
三年生の坂巻亮太、「新曲」の坂巻だ。
「え、あ、はい、あの…」
出鼻をくじかれたのか、小柄な坂巻はちょっと言いよどんだ。
自分の中だけで一所懸命練り上げたシナリオが出足からいきなり狂ったような、そんな感じだ。
「あ、あの、これ、教会のイベントで余っちゃって、えと、余ったからというわけじゃないんですけど、その、もし良かったら、受け取ってくださいっ。」
そう言うと恭子の手に小さな紙袋を押し付け、目を合わせずに走り去った。
寒い…。
手先の感覚がだいぶ無くなってきた。
遅い、遅いすぎるよ…。
場所を間違えたんじゃないかとか、今日は用事があったんじゃないかとか、もう何度も同じことを考えていた。
きっと来る、と、いや来ないかも…、がエンドレスでぐるぐると回っている。
亮太はイルミネーションの影で、もう何度目か分からないイメージ・トレーニングをしていた。
作戦は完璧だ。きっとドラマのワンシーンみたいに感激してくれる。
「あ…、先生…。」
恭子の姿が目に入ると、すべてが吹き飛んだ。
坂巻のやつ、なんだったんだろう。
冷たい坂巻の手の感触がまだ少し残っている。
紙袋には綺麗にラッピングしてリボンをかけられた小さな箱が入っていた。
箱を取り出すと、小さなカードが滑り出してツリーの前に落ちる。
メリー・クリスマス!
線の細い字で書かれた文字。冷たかった坂巻の手。
あ、やばい。
ちょっとイルミネーションがにじんできた。
あぁ、もうっ!あれだけ何度も練習したのに。
教会のイベントってなんだよ、これじゃほとんど不審者じゃん。
自分に嫌気がさす、ということを全身で体現しながら、亮太は駅までとぼとぼと歩いていた。
華やぐ街の光も、輝く通行人の笑顔も、ほとんど目に入らない。
バス停に着いたところで時間を見ようと、ポケットに手を突っ込んだ。
ない。
携帯電話が、ない。
思わず目を閉じる。今日は絶対に悪い日だ。
ちょっと、バス停がにじんで見えてきた。
急いで辺りを見回し、公衆電話に駆け寄った。
090-…
呼び出し音。せめて誰か親切な人が拾ってくれてるといいんだけど…。
「はい」
受話器の向こうから聞こえる、思いがけない恭子の声。
遠くから教会の鐘の音が、予鈴のように聞こえてきた。
hokuraku様、いい小説ありがとうございました。
いま熊本です。
キーワード:教会 + 大掃除
タイトル:ビンゴを捨て街に出よう
2日目のゲン(?)を担いで、ノンフィクション風フィクションです。
「え~ん、加奈子加奈子ぉ~」
『なにのび太君みたいな声出してるのよ』
「教会と、大掃除なの!」
『は?・・・もしかして、あのビンゴゲームのこと?』
「そう、そうなの!次でビンゴなのっ」
察しのいい加奈子を頼もしく思いながら、私は電話の向こうの加奈子に頷いてみせた。
しかし、加奈子は冷たかった。
『悪いけど、今回は協力できないわよ』
「なんで!?」
『あさって締め切りのレポートに追われてるから』
「じゃあ私はどうすればいいのよ~」
『今度は自分で考えなさいよ。教会と大掃除でしょ?簡単そうじゃない』
「昨日、今日と考えたけど、何にも思いつかないの!今日が締め切りで・・・前回もお休みしちゃったし・・・今回は絶対挑戦したい!自力でビンゴにしたいの!助けて加奈子~」
『私はドラえもんじゃないっての』
少し考えたような間があった。
『そうねぇ、じゃあ教会に行ってみればいいじゃない。書を捨て街に出よう。取材ってやつ!』
「だって教会なんて近所にないよぅ」
『あるじゃない!地下鉄S駅の出口脇に立派な教会があるわよ。私見たことあるもの』
「・・・そう言われてみれば」
『ね?何か思いつくかもよ。じゃあね』
電話はプツリと切れてしまった。レポートの前には、友情なんてこんなものか・・・いやいや、アドバイスしてもらったのだ、そんな風に言ってはいけない。
私はコートを羽織ると外に出た。
地下鉄S駅の出口に着いた。
加奈子の言うとおり、出口のすぐ近くにN教会という看板が立っていた。
茶色いレンガ壁の、長方形の建物だった。白抜きで十字架が描かれていることに気がつかなければ、教会以外の建物・・・オシャレな公民館のようにも見えるだろう。
確かうちは浄土真宗だったような・・・というくらい曖昧な、いかにも日本人らしい宗教観しか持ち合わせていない私は、恐る恐る建物に近づいていった。
入り口前の3、4段の階段を上ると、教会のドアがバタン!と開いた。外開きのドアだったので、私は慌てて退いた。
「あら、ごめんなさい」
中から出てきたのは私の母親と変わらない背格好の女の人だった。
「す、すいませんっ、ちょっと、あの、ビンゴ・・・いや、教会に興味があって・・・」
もごもごと説明すると、女の人はにっこり笑って私を教会の中に入れてくれた。
中には老若男女の人々が、雑巾やほうきを持ったりエプロンをしていた。その人々に向かって、女の人は声をかけた。
「人手が増えたわ」
すると、ワッと人がこちらに向かってきて、私に三角巾を渡してくれたり、ゴム手袋を差し出してきたりした。そして一通りの装備を手にとらせると、満足したようにワラワラと教会の中や外に散っていった。
「え、あの・・・?」
「今日は教会の大掃除の日なの。教会に興味があるなら、ぜひ、お手伝いして欲しいわ。もちろん無理にとは言わないけれど・・・礼拝なら明日の10時にまたいらして。でも、集まるメンバーは今日の人たちと代わり映えしないし、やってることも・・・そうね、雰囲気はこんな感じとほとんど変わらないから」
押し付けがましい雰囲気は一切なかった。それに、教会で、大掃除!
これ以上ピッタリな取材もないだろう。私は頷いた。
「お手伝い、させて頂きますっ」
女の人は嬉しそうに頷くと、自分もほうきを持って外に出て行ってしまった。
どうやら特に指揮をとるような人はいないらしく、めいめいが掃除したいところを勝手に掃除しているらしかった。私は近くにいる人に声をかけて、床を掃いたり窓を磨いたりした。
掃除が終わると、ホットコーヒーを差し出され、賛美歌をひとつ教えてもらった。
ピカピカになった教会の中で、一緒にその歌を歌った。
教会を出ると、とっくに日が暮れていた。
「お姉ちゃんまたねー!」
子どもたちが大振りに手を振るのに応えてから、地下鉄の乗り場に向かった。
(楽しかったなぁ・・・)
地下鉄の静かな揺れが心地よく、私はいつの間にか居眠りを始めてしまっていた。
夢の中では、教会での出来事を引きずるように、天使が賛美歌を歌っていた。
「お客さん、お客さん」
ポンポンと肩を叩かれて目が覚めた。
「あ・・・あれ?」
「お客さん、ここ、Hが丘ですよ。これ、終電ですよ」
「え、ええっ!?」
慌てて立ち上がって辺りを見渡した。天使はどこにいってしまったの?
「しゅ・・・終電?」
「ええ、もう、車庫に向かいますから、降りて下さいね」
非情な駅員に促されて、私はとぼとぼと電車を降りた。
(い、居眠りで乗り越すなんて初めて・・・しかも終電・・・終電!?)
私は携帯電話を取り出した。時間を確かめるためだ。時計は、23:55を示していた。
「あっ・・・あああああ!?・・・きょ、今日が締め切りなのに!今日があと5分て!あっ、締め切りは59分!?きゃああああ」
我を忘れて叫ぶと、私と同じ終電から降りてきたらしい人々がこちらを見た。私は赤くなった。
今度は小声で呟く。
「ど、どうしよう・・・せっかく教会で大掃除してきたのに・・・」
脳裏に、今日出会ったばかりの人々の顔や、一生懸命磨いたステンドグラスの模様が蘇った。
地下鉄の出口を出ると、冬の冷たい風が顔に当たったけれど、心は何故かポカポカしていた。
「・・・ま、いっかぁ」
握り締めた携帯のボタンを押す。発信履歴から加奈子の番号を呼び出した。
Hが丘から我が家は、歩くと30分くらいだ。
加奈子に付き合ってもらって、歩いて帰ろうと思った。話のタネは尽きない。
「あ、もしもし?加奈子ぉ?レポート終わった?まだ?ま、いいや、聞いてよ、私ってたら、終電で寝過ごして今、Hが丘にいるの・・・ビンゴ?うん、そう、教会に行ったらね、ちょうど大掃除しててねぇ・・・」
hosigaokakirari様、ありがとうございます。
いま熊本でこれから飲み会なので、コメント等は明日の朝までお待ちください。
『ジーザス』(教会、雪)
教会の中に入るのは初めてだった。
どうして来てしまったのかはわからない。気がつけば、オルガンの音色に誘われるように扉を開けていた。
クリスマス当日ではあるけれども、日も暮れたせいか、他の訪問者は一人もいないようだった。
ステンドグラスに彩られた礼拝堂の中を歩き、十字架の前で立ち止まる。
そういえば、クリスマスってキリストの聖誕祭だったっけ。磔になったキリストを眺めながら思う。
誕生日だというのに、死にゆく姿のキリスト。なんて強烈な皮肉だろう。
「どうなさったんですか? 何か悩み事でも?」
ふと見ると、隣で少し年老いた、穏やかな女性が微笑んでいた。この教会のシスターらしい。
私の目からは涙が数滴こぼれ落ちていた。オルガンはいつの間にか鳴りやんでいる。
「あ…実は、さっき彼氏にフラれてしまって…。クリスマスだっていうのに…。」
それから私は、堰を切ったように話し始めた。
少し前から彼とギクシャクしていたこと、今日の大喧嘩の内容、彼の浮気告白と一方的な別れの宣言…。
「なんか…突然全てが壊れちゃった感じで…。」
私は涙が止まらなくなっていた。シスターは静かに話を聞き、私が落ち着くのを待って、こう言った。
「このイエス様のお姿にはどんな意味があるか、ご存じですか?」
「磔の…? 死、とか…人間の罪、とかですか…?」
私は涙を必死で拭いながら言った。
「もちろんそういう意味もあります。でもね、イエス様は磔になった後復活なさったでしょう。彼は『再生』のシンボルでもあるんですよ。」
「再生…。」
「そう。何かが『終わり』を迎えたら、必ずそこから新しいものが『始まる』。私達はイエス様のように生き返ることは無理ですけど、」
シスターは少し微笑んだ。
「でも、失恋は単なる『終わり』じゃないわ。あなたの新しい恋の『始まり』でもあるんですから。そうでしょう?」
「……はい…。」
私は頷いた。少し心が軽くなった気がした。
涙で滲んだステンドグラスが、万華鏡のように見える。
「さぁ、もう日も暮れたから、早くお帰りなさい。またいつでも相談に乗りますから。」
「はい。」
私達は扉の方へと歩き出した。ふと振り返って十字架を見る。
『パンはキリストの肉体、ワインはキリストの血』
どこかで学んだ知識が思い浮かんだ。聖体っていうんだっけ。
明日は家でパンでも作ろうかな、と思った。
本当は明日も彼に会うはずだったけど。久々にゆっくりとパン作りをするのもいいかもしれない。
「あら、雪。」
扉を開けたシスターが呟いた。さっきまで降ってなかったのに。
「待っていて下さいね。傘、持っていないんでしょう?」
シスターは傘をとりに行ってくれた。
私は地面に舞い降りては、吸い込まれるように消えていく雪を見ていた。
この雪が全部小麦粉だったらいいのに。
そうしたら、たくさんたくさんパンが作れるだろうな。
私は、雪のかけらが次々と温かいパンに変わるのを想像した。
シスターの足音が近づいてきた。
パンが焼けたら、傘のお礼に持ってこよう、と私は思った。
himeichigo様、ありがとうございます。
すみません、コメントは明日の朝で。
キーワード:教会/大掃除
タイトル:僕はコッカイ君
僕のあだ名は「コッカイ君」だ。
政治家が集まる「国会」じゃない。罪を告白する「告解」だ。と言っても僕が罪を告白する訳じゃない。
そんなあだ名をつけたのは、小学生の頃、毎週日曜日に教会に通っているという女の子だった。
「皆の話を受け入れるから、コッカイ君ね」
今思うと、あの子も意味を完璧に理解して言っていた訳じゃないんだろうなぁと思う。
なにしろ、告解なんて大げさな看板の割に僕が受け付ける話と言えば、なにしろ中学生のこと、他愛のない--本人たちは大真面目だけど--相談事ばかりだ。
好きな人ができた、親と喧嘩した、飼い猫が家出した・・・。
だったら「相談君」でもいいような気がするのに、僕は告解君と呼ばれ続けていた。一度定着したあだ名というのは、もう、その理由なんて関係なく呼ばれ続けてしまうものなのだ。
告解君・・・世の中にはそういう役割を自ら進んで手に入れる人もいるようだったけれど、僕の場合はそうじゃない。かなり消極的な告解君なのだ。
それどころか、僕が誰かに相談をしたくてたまらない。
先月の席替えで隣の席になった加奈子ちゃんのことについてとか。
「・・・って訳でよぉ、俺、加奈子に告ろっかなーと思うんだよな。どう思う!?」
「いいんじゃないかな」
人気のない放課後の教室で、僕は例によって相談・・・告解君になっていた。
告解君はNOを言わない。ただYESと言って、相手を励ますのが仕事だ。
「山田なら、加奈子ちゃんも喜ぶよ」
「だよなー。最近、加奈子、俺のことよく見てる気がするんだぜ、マジ」
山田は鼻の頭をこすりながら頷いた。
「よっしゃ!コッカイに相談してよかったぜ。不思議だよな~、お前と話すと、すげー気分がすっきり!まるで掃除の終わった部屋・・・それもただの掃除じゃねーな。大掃除だ!大掃除した後みたいにすっきりするんだよ」
「はは・・・」
「マジ、サンキュ!」
「いいよ、別に」
僕はきっと浮かない顔をしていただろうに、山田は気がつかないようだった。そのまま教室を出て行こうとする。すると、入れ違いのように加奈子ちゃんが現れた。
山田は顔を輝かせた。僕の胃はキリキリと痛んだ。
「あっ、加奈子、俺、話が・・・」
「ごめん、後にして。私、コッカイ君に話があるから」
「そっか」
山田は僕に目配せして教室を出て行った。今度は僕と加奈子ちゃんが二人きりになった。
僕はどきどきした。胃はキリキリし続けていたけれど。
加奈子ちゃんは何度も出入り口を見て、まるで山田の影を探すような目つきをしていた。
「な、なに?なにか相談?」
「うん・・・恋愛相談なんだけど、いいかなぁ?」
僕のどきどきはアッサリ静まって、代わりに胃の痛みが倍増した。
「もしかしたら、ばれてるかもしれないけど・・・」
恥ずかしげな加奈子ちゃんを見ていると、さっきの山田の自信ありげな表情が浮かんだ。
--最近、加奈子、俺のことよく見てる気がするんだぜ、マジ。
聞きたくない。
いくら僕が「告解君」でも、好きな子の恋の相談なんて、絶対聞きたくない!
僕は加奈子ちゃんの言葉に口を挟んだ。
「相談なんて必要ないよ」
「え?」
「だって両思いだから」
僕はそれだけ告げて教室から飛び出そうとした。ところが、学ランの裾を思い切り掴まれてしまって、僕はつんのめった。
「・・・っとと!」
「本当!?」
加奈子ちゃんの弾んだ声が僕には苦しかった。僕は前を見たまま、加奈子ちゃんの方を振り返りもせずに頷いた。
「ああ、だからさっきの山田も、君と同じ相談だったんだよ」
「・・・?なんで山田君が関係あるの?」
「?だから、山田が君に告白したいって・・・」
「・・・私は、コッカイ君に告白しに来たんだよ」
「・・・え?」
「山田君は、関係ないよ」
僕はパニックに陥った。
「え、あれ、だって、山田の奴、加奈子ちゃんがよく俺の方見るんだーって・・・ええ?!」
「それは・・・山田君が、コッカイ君の隣の席だからだよ。私は、山田君じゃなくてコッカイ君を見てたの」
「え、ええ!?」
そう言われれば、先月の席替えで、右から山田、僕、加奈子ちゃんという並びにはなっていたけれど。でも、まさか僕を見ていたなんて・・・。
「・・・山田君のことはひとまず置いておこう」
加奈子ちゃんは顔を赤くして、両手で『置いといて』の仕草をした。
「コッカイ君の返事が聞きたいな」
僕は告解君だ。NOなんて言える訳がない。
もちろん、告解君じゃなくなって、当然、答えはYESしかない。
hosigaokakirari様、ありがとうございます。
今回は、himeichigo様の小説とhosigaokakirari様の小説が、
個人的には面白かったです。
hosigaokakirari様、ありがとうございます。
今回は、himeichigo様の小説とhosigaokakirari様の小説が、
個人的には面白かったです。