新人推理作家が、ようやく処女出版にこぎつけた。
定価1000円、初版1000部、ついに世に出るのだ。
糟糠の妻を抱きしめ「印税10%!」と叫んで祝杯を挙げた。
ところが、出版当日、編集部に匿名のメールが届いた。
「あの新作は、犯人の名が、ネットで暴露されている」
たしかに「作者+題名+犯人」で検索すると、スッパ抜かれていた。
有力書店に問合わせると、立読み客ばかりで、一冊も売れていない。
編集者は、作家に、心あたりを訊ねた。
「先生の玉稿を、ほかの誰かに見せたんじゃないでしょうね!」
作家は、全身をふるわせて否定した。
「でも、奥さんには筋書きを話したでしょう?」「えっ、まさか」
「奥さんが、友達に自慢して、犯人の名まで教えたんじゃないの?」
作家が妻を問いつめると「同窓生十数人に電話で伝えた」という。
ただし最初の投稿者は特定できなかった。
出版社の“得べかりし”逸失利益はいかほどか?
太宰治生誕100年記念 ~ 超難問シリーズ #026 ~
http://d.hatena.ne.jp/adlib/19480619
応答忌 ~ 桜桃忌と白百合忌 ~
出版社の損失は、100万円引くことの印税ぶん10万円で、およそ90万円の損害。
初版1000部の10%(本当は1冊1000円じゃ成り立たない発行部数です)では、全部売れても筆者は10万円。印税生活にはほど遠い。
「立読み客ばかりで、一冊も売れていない」と言われるほどすら店頭に並ばない冊数でしょう。
首都圏の大型書店に1〜2冊ずつ配本されて、ほとんどの書店にはゼロ。わざわざバレた本を探してまで読む人がそんなにいるのかな。
編集者の人件費と印刷代と、作者への印税100万円くらいですか。
どれくらい装丁にお金かけているのか知れませんが、全部込み込みで150万円ほどと推定します。
ちなみに初版千部じゃ有力書店には並ばない可能性が高いとも思われます。