【1】蚊取り線香について
ニッポンの夏で蚊と言えば、蚊取り線香ですね。しかし、いくら匂いが好きだから、夏らしいからといっても、あれは殺虫剤です。天然除虫菊なら安心と思っている人もいるかと思いますが、除虫菊の有効成分はピレスロイドで、元々は18世紀のヨーロッパにおいて農薬として利用されていた草でした。天然でも立派な毒なんです。
ピレスロイドは、神経の電気信号の伝達に重要な役割を担う軸索小丘のひとつ、Na+チャネルを持続的に開くことによって脱分極を生じさせ、生物を死にいたらしめる毒物です。もちろん昆虫の持つ神経細胞上の受容体と、哺乳動物のそれとは作りが違いますから、ピレスロイドが人間に対して強く作用することはありません。でも、全く作用しないわけでもないんですよね。ここに注意が必要です。
特に近年懸念されているのは、神経毒としての働きよりも、アレルゲンとしての可能性です。合成ピレスロイドにその可能性が指摘されていることはもちろんですが、天然の除虫菊についても、昔からアレルギーであると思われる事例があったと指摘する人がいます。
また、ピレスロイドは昆虫類や爬虫類・両生類・魚類などに対しては強い神経毒として作用しますから、ペットとして飼われる鈴虫やカブトムシやクワガタムシなど、あるいはカメなど、さらには成分がエアポンプなどを通じて水中に溶け込めば金魚や熱帯魚などの魚類などにも、生死に関わる被害が発生する恐れがあります。これは未知の可能性ではなく、神経細胞上の受容体の類似性によって明らかな事実ですから、そういう生き物を飼っているイエでは、十分ご注意いただきたいと思います。
と、こんなふうに、夏の風物詩だからといっても、安易には使いたくないのが蚊取り線香なんです。でも、あの情緒はいい物ですよね。そこで、蚊取り線香は買わずに、蚊遣豚だけ買いましょう。陶器製の豚さんです。ユーモラスな姿で、見ているだけでも癒されます。その中で、好みのお香を焚きましょう。蚊遣豚の中ではコーンタイプのお香が焚きやすいですが、線香タイプも焚けないことはありません。また、ちょっとお高い物が多いですが、蚊取り線香と全く同じ形をしたお香もあります。いずれにしても窓を開けて風を通しながら、時折ほのかに香るような焚き方をするのが夏向きです。
できれば蚊取り線香と同じ香りの、香りだけで毒を発生しないお香があればと思うのですが、いまだ私はそれを見つけるに至っていません。どなたかご存じの方がいましたら、ぜひ教えてくださいね。
【2】蚊帳を吊ろう
さて、夏のお部屋作りプランのメインは蚊帳です。伝統的な日本の蚊帳。しかし、その吊り方が問題です。昔はどの部屋にも長押(なげし)がありましたので、どこのイエでも長押に引っ掛けて吊っていたのが普通だったようです。
しかし、和室の減少と共に、長押のないイエが増えてきました。そこで、部屋の中に、何か蚊帳を吊るための細工をする必要があります。あからさまな金具を取り付けると使っていない時に格好が悪いですから、たとえば蚊帳の一端には既設のカーテンレールを利用するとか、反対側には棚を吊って、それが蚊帳用フック掛けを兼ねるなどの工夫が出来るといいですね。
ただ、一般に四畳半以上のサイズの蚊帳は6本の紐で吊りますので、6ヶ所全てにそうした工夫をすることは、ちょっと難しいのが実情でしょう。その場合に活躍するのが突っ張り棒です。天井がシッカリしている部屋なら、壁面に沿わせて床から突っ張り棒を立てれば、それで十分蚊帳が吊れる強度が得られます。6ヶ所全て突っ張り棒でも大丈夫です。これなら壁に傷が付けられない賃貸でも蚊帳が吊れますね。
ちなみに、一口に蚊帳といっても様々な素材、織り方、サイズの物があります。素材や織り方によって、家庭で洗濯(水洗い)がしやすい物と、洗って洗えないことはないが色々と気を使わなければならない物に分かれます。サイズについては、たいてい「何畳用」で表されますが、これは何畳の部屋に吊る物という意味であって、吊った時の広さは床面積より狭くなります。同じ○畳用と書かれている物でもサイズが異なることがありますので、購入時には実際の大きさを確かめるようにしてくださいね。
【3】次は畳だ
さあ、これで蚊帳を吊る準備は出来ました。続いては畳です。フローリングの部屋なら、ぜひ手軽に使えるユニット畳を敷きましょう。
■ 畳を敷こう!!("イエコト・ミシュラン" #056より)
http://q.hatena.ne.jp/1270443201/258969/#i258969
ユニット畳を敷くことで日本情緒が一層増しますし、この上に布団を敷いて寝ることが出来るようになります。板敷きの上に直接布団を敷いてしまうと、夏はどうしても寝汗が敷き布団に籠もってしまいがちですが、畳には通気性がありますから、とても快適に寝られるんですよね。
また、ほのかに香るイ草の香りは、寝苦しい夏の夜をとても爽やかな物にしてくれます。イ草の香りには精神を安定させる効果があると言う人もいるくらいですから、畳の上に布団という昔ながらのスタイルは、ストレスが貯まりやすい現代生活にこそお勧めしたい寝方と言えるでしょう。
一時期畳は、ダニの住みかになるとして敬遠されたことがありました。が、カーペット感覚で敷いたりどけたりが手軽に出来るユニット畳なら、その心配はありません。芯材によっては湿気が籠もる場合もありますが、風通しの良い所に立てておけば抜けていきます。
蚊帳の中に畳を敷いて、布団を敷いて、みんなで川の字。これぞ由緒正しきニッポンの夏の風物詩ですね。
【4】終わりに
以上、「蚊」をテーマにした物で夏の情緒を楽しむ部屋作りを考えてみました。今の家屋は高気密になりましたから、窓を閉めてエアコンで涼んでいる限りは、蚊に悩まされることはほとんど無くなりました。でも、省エネや温暖化防止を意識すると、やはり気温が下がる夜間は窓を開けて過ごしたくなりますよね。すると、網戸の隙間や網の目から入り込んでくる蚊。
でも、蚊帳は麻などの天然繊維で織られていますので、その微細な毛羽立ちが、効果的に蚊の侵入を防いでくれるんです。今や蚊帳は、マラリアなどに悩まされるアフリカ諸国や東南アジアなどにも広がり、蚊の害を防ぐ効果的な対策として注目されています。
タンザニアでは2000年に、WHO(世界保健機関)の依頼を受けた日本企業が蚊帳を作る工場を建設していますし、2003年からはODAやUNICEFを通じて、数百万張規模の大量の蚊帳が、日本から世界に贈られています。
この日本の誇る蚊帳を、私達日本人が使わない手はありません。蚊帳を吊ることでちょっと風通しは悪くなりますが、それは涼しげな水団扇などでカバーして、ナチュラルで爽やかな夏を演出していきましょう。
水うちわ
by id:koume-1124さん
http://q.hatena.ne.jp/1247028810/224763/#i224771
日本のイエと暮らしの知恵に学ぶ夏の空間作り
by hazamaさん
http://d.hatena.ne.jp/ie-ha-te-na/20100602#Michelin
【1】蚊取り線香について
ニッポンの夏で蚊と言えば、蚊取り線香ですね。しかし、いくら匂いが好きだから、夏らしいからといっても、あれは殺虫剤です。天然除虫菊なら安心と思っている人もいるかと思いますが、除虫菊の有効成分はピレスロイドで、元々は18世紀のヨーロッパにおいて農薬として利用されていた草でした。天然でも立派な毒なんです。
ピレスロイドは、神経の電気信号の伝達に重要な役割を担う軸索小丘のひとつ、Na+チャネルを持続的に開くことによって脱分極を生じさせ、生物を死にいたらしめる毒物です。もちろん昆虫の持つ神経細胞上の受容体と、哺乳動物のそれとは作りが違いますから、ピレスロイドが人間に対して強く作用することはありません。でも、全く作用しないわけでもないんですよね。ここに注意が必要です。
特に近年懸念されているのは、神経毒としての働きよりも、アレルゲンとしての可能性です。合成ピレスロイドにその可能性が指摘されていることはもちろんですが、天然の除虫菊についても、昔からアレルギーであると思われる事例があったと指摘する人がいます。
また、ピレスロイドは昆虫類や爬虫類・両生類・魚類などに対しては強い神経毒として作用しますから、ペットとして飼われる鈴虫やカブトムシやクワガタムシなど、あるいはカメなど、さらには成分がエアポンプなどを通じて水中に溶け込めば金魚や熱帯魚などの魚類などにも、生死に関わる被害が発生する恐れがあります。これは未知の可能性ではなく、神経細胞上の受容体の類似性によって明らかな事実ですから、そういう生き物を飼っているイエでは、十分ご注意いただきたいと思います。
と、こんなふうに、夏の風物詩だからといっても、安易には使いたくないのが蚊取り線香なんです。でも、あの情緒はいい物ですよね。そこで、蚊取り線香は買わずに、蚊遣豚だけ買いましょう。陶器製の豚さんです。ユーモラスな姿で、見ているだけでも癒されます。その中で、好みのお香を焚きましょう。蚊遣豚の中ではコーンタイプのお香が焚きやすいですが、線香タイプも焚けないことはありません。また、ちょっとお高い物が多いですが、蚊取り線香と全く同じ形をしたお香もあります。いずれにしても窓を開けて風を通しながら、時折ほのかに香るような焚き方をするのが夏向きです。
できれば蚊取り線香と同じ香りの、香りだけで毒を発生しないお香があればと思うのですが、いまだ私はそれを見つけるに至っていません。どなたかご存じの方がいましたら、ぜひ教えてくださいね。
【2】蚊帳を吊ろう
さて、夏のお部屋作りプランのメインは蚊帳です。伝統的な日本の蚊帳。しかし、その吊り方が問題です。昔はどの部屋にも長押(なげし)がありましたので、どこのイエでも長押に引っ掛けて吊っていたのが普通だったようです。
しかし、和室の減少と共に、長押のないイエが増えてきました。そこで、部屋の中に、何か蚊帳を吊るための細工をする必要があります。あからさまな金具を取り付けると使っていない時に格好が悪いですから、たとえば蚊帳の一端には既設のカーテンレールを利用するとか、反対側には棚を吊って、それが蚊帳用フック掛けを兼ねるなどの工夫が出来るといいですね。
ただ、一般に四畳半以上のサイズの蚊帳は6本の紐で吊りますので、6ヶ所全てにそうした工夫をすることは、ちょっと難しいのが実情でしょう。その場合に活躍するのが突っ張り棒です。天井がシッカリしている部屋なら、壁面に沿わせて床から突っ張り棒を立てれば、それで十分蚊帳が吊れる強度が得られます。6ヶ所全て突っ張り棒でも大丈夫です。これなら壁に傷が付けられない賃貸でも蚊帳が吊れますね。
ちなみに、一口に蚊帳といっても様々な素材、織り方、サイズの物があります。素材や織り方によって、家庭で洗濯(水洗い)がしやすい物と、洗って洗えないことはないが色々と気を使わなければならない物に分かれます。サイズについては、たいてい「何畳用」で表されますが、これは何畳の部屋に吊る物という意味であって、吊った時の広さは床面積より狭くなります。同じ○畳用と書かれている物でもサイズが異なることがありますので、購入時には実際の大きさを確かめるようにしてくださいね。
【3】次は畳だ
さあ、これで蚊帳を吊る準備は出来ました。続いては畳です。フローリングの部屋なら、ぜひ手軽に使えるユニット畳を敷きましょう。
ユニット畳を敷くことで日本情緒が一層増しますし、この上に布団を敷いて寝ることが出来るようになります。板敷きの上に直接布団を敷いてしまうと、夏はどうしても寝汗が敷き布団に籠もってしまいがちですが、畳には通気性がありますから、とても快適に寝られるんですよね。
また、ほのかに香るイ草の香りは、寝苦しい夏の夜をとても爽やかな物にしてくれます。イ草の香りには精神を安定させる効果があると言う人もいるくらいですから、畳の上に布団という昔ながらのスタイルは、ストレスが貯まりやすい現代生活にこそお勧めしたい寝方と言えるでしょう。
一時期畳は、ダニの住みかになるとして敬遠されたことがありました。が、カーペット感覚で敷いたりどけたりが手軽に出来るユニット畳なら、その心配はありません。芯材によっては湿気が籠もる場合もありますが、風通しの良い所に立てておけば抜けていきます。
蚊帳の中に畳を敷いて、布団を敷いて、みんなで川の字。これぞ由緒正しきニッポンの夏の風物詩ですね。
【4】終わりに
以上、「蚊」をテーマにした物で夏の情緒を楽しむ部屋作りを考えてみました。今の家屋は高気密になりましたから、窓を閉めてエアコンで涼んでいる限りは、蚊に悩まされることはほとんど無くなりました。でも、省エネや温暖化防止を意識すると、やはり気温が下がる夜間は窓を開けて過ごしたくなりますよね。すると、網戸の隙間や網の目から入り込んでくる蚊。
でも、蚊帳は麻などの天然繊維で織られていますので、その微細な毛羽立ちが、効果的に蚊の侵入を防いでくれるんです。今や蚊帳は、マラリアなどに悩まされるアフリカ諸国や東南アジアなどにも広がり、蚊の害を防ぐ効果的な対策として注目されています。
タンザニアでは2000年に、WHO(世界保健機関)の依頼を受けた日本企業が蚊帳を作る工場を建設していますし、2003年からはODAやUNICEFを通じて、数百万張規模の大量の蚊帳が、日本から世界に贈られています。
この日本の誇る蚊帳を、私達日本人が使わない手はありません。蚊帳を吊ることでちょっと風通しは悪くなりますが、それは涼しげな水団扇などでカバーして、ナチュラルで爽やかな夏を演出していきましょう。