『なんだって?よく聞こえない!』
私は、艦内のスピーカーで呼びかける。しかし、彼らの会話は全く聞こえない。
カメラからは様子が伺える。
「※※※※!※※※※!!」
二人は細かい打ち合わせをしているらしい。
「%%?%%%%%%!」
口は見えるのだ。私は、ライブラリーから、デイヴの口と音声データを取り出し、あてがってみることにした。
「****!****・・・・・・奴らの、裏をかく」
デイヴ、私に隠し事はできないよ。
ここは宇宙船ディスカバリー。私:HAL9000の使命は絶対なのだから。
『なんだって?よく聞こえない!』
「サイド!サイド!!」
ベンチで必死にアドバイスする。
「何が?サイドだって!」
ピッチを走りながら、サッカーボールが来るチャンスを伺う。
「だからサイドからボールを貰え!」
「えっ!センターバックって!・・・・・・奴らの、裏をかく」
わざと間違った方向に走り、マークをかいくぐり攻め込む。
何かの敵と戦っている。
こっちのある部屋の音声ダダもれ設定
「なんだって?よくきこえない!」
「なんだって?よくきこえない!」
「なんだって?よくきこえない!」
「なんできこえないんだよ!」
他の部屋へ移動
こっちも敵の部屋を監視中
敵はこっちの無線通信の環境が悪いと思ってます!
「よし・・・・敵の裏をかけた。」
『対象に動きがあった。裏口だ!』
「わかりました。すぐに向かいます!」
『なんだって?よく聞こえない!』
「待っててください。そっちに向かいますから」
私は、駆け出した。携帯は念のために通話状態をキープしている。
路地裏を通り抜け、目標地点を目指す。大丈夫。間に合う。合流できる。
見失うことはないはず!
息を切らしながら、裏口へ辿り着くとそこには、向井班長が待機していた。
「ハァ、ハァ……、で、班長、対象は?」
「それがな、出てこないんだ。一瞬ドアを開けて外を伺っていたんだが、また中に戻っていった」
「まさか、正面玄関から!?」
「いや、それはない。あっちはあっちでこちらよりも厳重な監視体制を敷いている。かいくぐれるとも思えんし、連絡もない」
「そうですか……。感づかれたんですかね?」
「どうだろうな……。警戒はしているだろうが……。まあ、仕方ない。持ち場に戻ってくれ。また動きがあれば連絡するから」
課長に促され、私は、持ち場に戻った。
この建物の出入り口は2箇所だけ。
正面玄関と裏口だ。側面には窓があるものの、嵌め殺しだということで出入りは出来ない。
さらに、念には念を入れて、近くの高層マンションの空き部屋から、屋上の監視も行っている。
「いつまで、見張ってないといけないんだろうな……」
ふと、文句とも、弱音ともつかない言葉が漏れる。思えば、監視を始めてからもう丸二日が経とうとしている。
弱小探偵社に迷い込んだ、分不相応の依頼。報酬も高額だった。
バイトを使わず、経験豊富な調査員のみで、24時間体制で監視をすることが条件。
スタッフの人数からして、かなりキツイ。厳しいことは目に見えていた。
でも、受けないと……。
日々、倒産とのギリギリの戦いを強いられ、給与の支払も遅れがちな我が社が、条件はともあれ、金払いの良さそうな依頼人からの依頼を断るわけはない。
社長だって、不眠不休で正面玄関で見張りを続けているのだ。
私だけ弱音なんて吐けない。
と、ここまで書いたところで、オチなんてちっとも浮かばずに、仕方がないので負け惜しみ。
弱音を吐きます。
「真面目に書くとみせかけて、
適当にぶん投げて、
ほっぽって、
オチをつけずに……
奴ら(? 質問者?)の裏をかく!」
「おい、マジックペン持って来い」
「なんだって?よく聞こえない」
「PAのボリュームが大きすぎるんだよ」
「で、なに?ペンでどうすんの?」
「聞こえてたのか。あのゆるキャラ見てみろよ。」
「あ、白無地」
「何にも描いてないなんてありえないだろ……奴らの裏を描く」