【イエはてな】“イエ・ルポ 2” #017

時間講師でやってくるF先生は、本当はクラブの顧問をしたくてしたくてたまりません。でも時間講師なので、そういう仕事は任せてもらえません。部活をやりたくてやりたくてウズウズしている様子が手に取るようにわかりました。

大学時代にバスケをやっていたと聞いていましたので、球技大会の前に、クラスのコーチをしてくださいとお願いしてみました。するとF先生は大喜びです。ちょっと待ってろ、担任の先生にお伺いを立ててくると職員室にすっ飛んでいって、OKもらったと満面の笑みで戻ってきました。

さっそくその日の放課後から、男子のバスケ選手に選ばれたメンバーが集まり練習を開始しました。F先生の指導はなかなか本格的で、バスケ部の連中も、あの先生すげぇと言うくらいでした。練習が終わるとミーティングです。これも本格的。その日の練習で良かった点、注意すべき点などを確認し合いますが、それ以上にF先生は、そこで熱血青春論をぶちあげることに力を入れていました。ミーティングの最後は全員で肩を組んで歌を歌います。毎日それです。先生はうれしそうです。私たちは恥ずかしいです（笑）。

球技大会当日、F先生の指導のお陰で私たちのクラスは強く、なんと決勝戦まで進みました。しかし決勝は苦戦でした。そろそろ時間がなくなり、かなり追い詰められていたその時、F先生が突然いつもの歌を大声で歌いはじめました。応援のつもりらしいです。私たちは、ひぇー、恥ずかしいよぅ、です。しかし控えの連中も一緒に歌いはじめました。それに励まされるかのようにロングシュートが決まり、みごとわがクラスが優勝です。F先生の喜びようといったら大変なものでした。

帰りがけにみんなでF先生のところにお礼の挨拶に行き、冗談で、先生、最後に夕日に向かって走りませんかと言ったら、先生は本気になって、よし、やろうと叫んで、上着を脱いで校庭に飛び出していきました。私たちも爆笑しながら後を追い、本当に校庭を夕日に向かって走りました。そしてみんなで肩を組んで、いつもの歌を歌いました。青春でした。もうベタベタの青春でした。

それから数年して、別の学校ですが、F先生が正規の教師として採用されたことを知りました。今も教師として頑張っていると思います。熱血、青春を地でいく先生として、若き情熱溢れる生徒たちを引っ張っていっていることでしょう。