テーマ:方程式 スイーツ
創作文章(ショート・ストーリー)を募集します。
ルールははてなキーワード【人力検索かきつばた杯】を参照のこと。
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締切は 5/15(火)の夜を21~22時くらい
『ケーキを代入!』
私が彼に初めて会ったのは、遠田先生の応用言語学の中間テストのときだった。南講義室の最後列で、私の隣に座っていたのが彼だった。
彼は異様だった。そもそも大学生じゃなくて、中学生ぐらいに見えて、紺色のぶかぶかパーカーのフードをかぶってて。
でも合図がして、テストが始まると、彼は迷いのない速度でシャーペンを走らせ始めた。その隣で私はグリムの法則につまづいて、「Kuchen」というドイツ語に該当するギリシア語が何なのか考えあぐねている。私と違って彼はきっと、応用言語学をきちんと自分の血や肉にして夏学期を終えるんだろうなあ。エラいなあ。
こんなことを考えている私にとって、彼はまだ完全に他人だった。
テスト開始からしばらくして、先生と助手さんは学生に学生証の提示を求めて回り始めた。私たちの列には助手さんが順にチェックしていく。助手さんが来て、私は学生証を提示して、助手さんはリストに書き写す。そして折り返して、向こうの列の彼に当たる。すべての所作を、助手さんは手際よくこなした。でも彼のところで、その手際よさは、止まった。彼は本当に学生証を持っていなかったみたいで。
彼と助手さんは小声で話し込んでいた。私は聞き耳を立てた。中学生とか学務課とかって単語が聞こえた。しばらく問答があったあとで、テストは途中だったはずなのに、彼は助手さんといっしょに講義室をあとにした。助手さんは前を向き、彼は後ろを見ていた。視線の先には、彼が座っていた席があった。
だれもそれを気に留めなかった。扉が閉まる音がした。ほどなくチャイムが鳴った。
結局テストにはぜんぜん集中できずじまいだった。ふと彼が座っていた席を見ると、そこには小さなノートが落ちていた。私はそれを拾って、そっと開いた。板書のメモが鎮座し、周りに数式が熱っぽく踊っていた。筆記量は私の倍はあった。私はそれを、かばんにしまった。 遠田先生が助手さんと話をしていた。
私はそのまま学務課へ行ってみた。彼の姿は見当たらない。でも私は、その隣の応接室のすりガラスの向こうに、紺色の人影を見つけた。彼のパーカーの色だ。
私はふせんを取り出して短くメモを書いた。そしてそれを、応接室の前すぐの床に貼った。気付いてくれると思う。たぶん。きっと。
先に買い物をして、すぐに戻ってこよう。
* *
3限の南講義室は空き教室で、見事にだれもいなかった。私はさっきの席で、彼が来るのを待っていた。やがてやってきた彼も、やはりさっきと同じ席に座った。
「辛いかい?甘いかい?」
私の声で、彼はこっちを向いた。ひどい顔をしていた。
「君は心にフォークを刺して歩いているようだ。」
「なに。」
彼は私から視線を外して、言った。
「私が好きな小説に出てくるセリフ。いますごく流行ってるんだよ、私の中でだけど。」
「持ってんの? 俺のノート。」
「あるけど、その顔じゃあげられない。」
「……。」
「代わりにこれあげる。」
私は買ったばかりの冷たい箱を机に上げて、彼のほうへ寄せた。彼は動かない。
「さっき、応接室にいたでしょ。なんて言われたの。」
「…れぎぬ。」
「え?」
「ぬ・れ・ぎ・ぬ。」
「あ、代返とかと疑われたのね。」
「吐けとか言われた。」
「代返とかじゃないんでしょう?」
「あいつの方程式がぜんぜん解けなかった。」
「ほうていしき?」
彼は急にまくしたてた。
「人の気持ちは関数で、その日の天気とか好みとか相手への興味とかが変数で、各々に重み係数が付いて、その総和が一つの関数を成してんじゃん。故に誰かを或る気持ちに導きたければ、その関数を近似して、それに応じて適切な値を変数に代入して行けば良いだろ。例えばゼロを導きたければイコールゼロにしてそれを解けば良いじゃん。けど、あの学務課長とやらの関数は、保身だの上層部の意向だのにハンパないでかい係数が付いてた。マジ意味分かんねえし。見方に依っちゃ、奇特な若人が勉学に励んでんじゃん。それで良いじゃん。だのに何なの。大人って全員ああなの。」
彼の声はだんだん嗚咽で歪んでいった。 私は尋ねた。
「学務課の人、それでなんて言ってた? もう来ちゃだめだって?」
「俺の潔白が分かって『以後気を付けろ』だと。胸糞悪い。」
「じゃあまた来てもいいってことじゃない。」
「……。」
「立場上またおいでとは言えないから。」
「……。」
「だれも悪くないのに、そうなってしまうことってあるんだよ。」
「……。」
「次からはテストはやめといたほうがいいよ。その箱を開けてごらん。それあげるから。」
彼はそこで初めて箱に手をかけた。3つの命が宿ってる。
「…夏蜜柑のケーキ…? 何で。」
私はふざけてみた。
「新作だったから。」
「そういう意味じゃねえし。」
そのとき、彼は初めて笑った。笑うとまるで子どもだった。
私は彼にノートを放った。彼は片手で器用にそれを受け取った。
「みんな、勉学に励む若人の味方だよ。遠田先生のゼミ、入りたい?」
私は聞いた。彼は首を傾げて、頷いた。
「ケーキがなんで3個なのか、分かる?」
「……、?」
「1個はあげる。1個は私の。最後の1個は…あっれぇーなんだったかなぁ、遠田先生の好きな食べ物。」
彼は一瞬間を置いて、
「解けた! ケーキを代入!」
って叫んで立ち上がった。
「ちょっと! 今日から私が先パイだからね!」
すぐに教室を飛び出した彼を、私はあわてて追いかけた。
『スイーツの方程式』
「ビーッ、ビーッ、ビーッ、……」
頭が割れんばかりに船内に響き渡る警告音が操縦席でうたた寝をしていた俺を叩き起こした。
操縦席のメインパネル全体で赤く点滅するアラートの文字。
画面にタッチし、詳細情報を確認する。
「マジかよ。お約束だな」
そう。古来一人乗り宇宙貨物船に必ず現れるというアレである。
操縦席から立ち上がり、中央制御室から船倉へ向かい第三コンテナのドアを開けた時に目的のものを発見した。『密航者』である。
宇宙服の外からでは人物は把握できないが、かなり小柄に見える。
「手を上げろ」
保安用の銃口を目の前に突きつけた。
宇宙服の手が上がった。
「ゆっくりとヘルメットを取れ。不振な動きをすれば射殺する」
ヘルメットを外すと中から豊かなブロンズの髪があふれる。
軽く頭を振った15・6歳の少女は利発そうな目に強い意志を浮かべ震えながらもはっきりした声で言った。
「私はティセレニ連合王国の正統皇女です」
目的地の星の皇女様かよ。自称だが。
「ご存知の通り、わが王国はクーデターにより厳しい入出国審査が行われています。通常の方法では王族の身である私は入国できないため、密航させて頂きました。ご迷惑をおかけしてすみません」
彼女は頭を下げた。
「どんな謝礼でも差し上げます。ティセレニ連合王国まで連れて行ってください。お願いします」涙のあふれそうな目で彼女は訴えかけた。
「駄目だ」
「お願いです。星間ニュースでも流れましたが、亡命できなかった妹がクーデター派によって処刑されます。反クーデター派をまとめて妹を助けるに私が行くしかないのです」
「残念だが『物理的』にできない。船の燃料は航行に必要な量しか積んでいない。君を乗せて航行すれば燃料不足により船は惑星に墜落する」
「そんな」
彼女は口元を手でおおい息をのむ。
「悪いが、君は即時に船外に破棄される。王族も例外ではない」
「冗談はやめて下さい。死んでしまいます」
俺は大きく首を振った。
「したくはないが、このままでは俺も死んでしまう」
彼女は泣きだした。
「なんとかする方法は無いのですか?……死にたくないです」
「ただ一つだけ方法がある」
「本当ですか?」彼女の顔に笑みが戻る。
「船の積荷を知っているか?世界初の電子転送装置だ」
彼女の後ろの暗がりにある2つのワイヤーで固定された機械を指差した。
「それは……どんなものですか?」
「送信元の全原子情報を読み取り、送信先に送り原子を再構築することで、離れた場所に人間を転送する機械だ」
「それで王国まで転送して頂けるのですね?」
「いや、世界初といっただろ。送信機も受信機も世界でここにしかない。惑星に受信機がないので送ることはできない」
「それではどうやって?」
「送信機の電源だけを入れ、君を転送する。受信機の電源が入っていないので送信機はひたすら送信を繰り返す。惑星に着いた後、受信機側の電源を入れ、君を受信する。君は惑星に無事たどり着け、船内の質量問題も解決する」
「本当に可能なのでしょうか?」
「大丈夫だ」
「分かりました」彼女は観念したように頷いた。
俺は送信機側の電源を入れセットアップを始めた。電送機の内部に灯りが点り、透明なドアの内部の複雑なメカが暗闇の中に浮かび上がる。
「これで準備オッケーだ。中に入ってくれ」転送装置のドアを開け彼女を中に押し込もうとした。
「本当に大丈夫ですか」彼女は両腕で体を中に入れないように抵抗しながら振り返った。
「大丈夫だ。今も燃料は消費されているんだぞ。早くしないとこの方法でも無理になる」
「でも……」そういいながらも彼女は腕の力を抜き、俺は彼女を転送機に押し込んでドアを閉めた。
「行くぞ」転送機の制御版に近づき転送開始ボタンに指を伸ばした。
「まって、転送されると私はどうなるの?」
「情報を読み取った後、原子に分解される」
「それって死ぬことじゃないの?」
ドアの向こうに恐怖で引きつった顔が見える。
「大丈夫。全く同じ情報で再生されるから、それは君だ」
「でも、でも……」
俺はスイッチを押した。低いモーター音が響き機械が作動を始めた。
「出して!やっぱり変。いくら同じでもそれは私じゃない!」
ドアの中から両手で必死に叩く様子が見える。
「絶対!その理屈はおかし……」
最後の絶叫と共に彼女は原子へと分解された。
「……おかし……」彼女の最後の声が船内にこだまする。
俺は誰も居なくなった転送機の中をのぞきこんで、船外に破棄するため、ドアの中の「元」彼女を取り出した。
...
「ふうっ」
惑星の宇宙港へ無事着艦した俺は燃料計を見て冷や汗をかいた。管制官の上空待機指示が後5秒長かったら生きて着陸できなかっただろう。
急いで第三コンテナに向かった。送信機は無事動いているようだった。
受信機の電源を入れ、モニタのメニューから受信開始を選び押す。
受信機は小刻みに振動を始め、ドアの中が白いもやに包まれる。
モニタの受信終了のメッセージを確認し、ドアの前まで行きロックを解除する。
ドアは内側から勢いよく開かれ中から白いもやに包まれながら何か飛び出してきた。
「おかし!あれっ?」
俺の胸の中に飛び込んできた彼女は涙で濡れた目で不思議そうに見上げていた。
「お菓子?。スイーツならおごるってやるから、もう泣くな」
彼女の目の涙を人差し指で拭って頭を軽くなでた。肩を抱くと小刻みに震えているのがわかる。よっぽど怖かったらしい。
「私生きてるの?スイーツって?」気持ちがまだ混乱しているようだ。
「無事着きましたよ、お姫様」
そういえば、宇宙港ランドマークの最上階ラウンジで昼間はケーキバイキングやってるから行ってみるか。
「スイーツは好き?」っと聞いてみた。
「はい」、と泣きながらも笑顔を浮かべて元気良く彼女は答えた。
古来一人乗り宇宙貨物船に必ず現れるという密航者問題を「○○の方程式」と呼ぶのだが、スイーツと聞いて喜ぶ笑顔を見て俺の解法は「スイーツの方程式」と呼ぶことに決めた。なんとなくだが。
まあ、この後色々トラブルに巻き込まれて、帰りはなぜか密航者が2人に増えるんだが、それはまた別のお話。
その後、修正されても、読み直さない可能性もあります。まあ、気分次第ですが。
とりあえず此方にしました。
片方は続編なので、無理やりつなげてもいいんですけど、続編だけで2000字超えて来たので……。
もう一つのやつはもっとグダグダなので、もうちょっと練ってから投稿します。
禁則事項です。
>最初は私も冷たい方程式モノで考えてたんですけど、
そうくると思って質問登録後、「早いもん勝ち!」と1時間で書き上げました。
2回回答できるようですのでもう一つ書いてみました。
少しはまともになったかなと思ったんですが。
何だか私の話って病んでるかドシンプルってやつですね。
そして人が死にそうになるので今回も誰も殺さないように書きました…。
ちなみにパクリ元はコチラ
http://d.hatena.ne.jp/gm91/20120515/1337011734
美味しいとこ持って行きましたねw
BAおめでとう御座います。
今回も楽しかった…!!
久しぶりにリアルタイムでかきつばた捕まえたので参加できてよかった♪
あと弥演琉さんおいしいところごちそうさまー!いやっh…
…うそですほんとお邪魔しました汗 でもケーキおいしかったです。
今回のテーマ見て私はスイートでフロートなアパートが
ずーっとぐるぐるして頭から離れませんでした。
101号室に私を代入する話かな?とか←違
あとはグラ娘。さんがステキな講評を書いてくださると聞いているので、
おりこうにして待ってたいと思います。わくわく。