人力検索はてな
モバイル版を表示しています。PC版はこちら
i-mobile


●質問者: sokyo
●カテゴリ:芸術・文化・歴史 ネタ・ジョーク
○ 状態 :終了
└ 回答数 : 19/19件

▽最新の回答へ

16 ● あるぴにっくす
●12ポイント

「僕の夢はアイドルのナカミナさんに『好きです!』って告白されることかな」

そう話すタクミの顔からは、何か吹っ切れたような清々しさすら、私は感じられた。病院の白いベッドの上で朝日を浴びている横顔を見たからかもしれない。
タクミはベッドの柵に橋渡した簡易デスクの上で、そのアイドルに宛てた手紙に封をしている。
ほんの一カ月前までは一緒に体育の授業でドッチボールをしていたというのに。

「アユミは暇なの? 毎日のように来てくれるのは、その、嬉しいんだけどさ」
強気と弱気が交じりきっていない、唐突な質問。

クラスの他の子たちはタクミの”最初の入院”のときには度々見舞に来ていたが、ここ最近はこの個室に足を踏み入れるのはタクミのお母さんと私くらいだ。

タクミの容貌が、元気よく登校していた頃と比べて弱弱しくなっていることも理由の一つだと思う。悪気はなくとも内心では痛痛しさを感じている人が、続けてこられる場所ではない。

“ナカミナ”なるアイドル女性に向けた手紙はベッドの下の自作の簡易ポストに入れると、タクミのお母さんが定期的に切手を貼って投函している、らしい。
「ねえ、タクミ。ナカミナさん、来てくれるかな」
タクミは間髪入れずに「くる、くる、ぜってーくるよ」と自信満々だ。その自信がどこから湧いてくるのか不思議でしょうがないが、そう言って強がっている姿にホッとしている自分もいて、悔しい。
「なんたって来月はバレンタインデーもあるしさ」
今回の入院から持ち込んだパソコンを起動し、日課の検査結果表の数値の打ちこみを始める。
「エクセルってグラフ作るの便利なんだけど、セルの範囲が決まってないと横幅難しいね」
横軸に日付、縦軸に腫瘍マーカー値を入れた表組を私に自慢気に見せる。情報システムの授業で習ったグラフ作成を一番使いこなしているのはタクミだと思う。
「だれかスマホアプリでもつくってくんないかなー」
そんな残酷なアプリ、appleの申請を通んないと思うよ、という突っ込みを私はぐっと飲み込んだ。

タクミは一昨年「いくらアユミでも女にはぜってー言えねえ」という病名で入院、手術した。退院後通常の生活に戻っていたのが、年末の定期検診の結果が出たところで、
「ごめん、PSA30越えてたから一緒に学校いけなくなったわ」
というショートメールと共に教室から消えた。

入院直後は、見舞にきたときに一緒に院内の庭を散歩していたのが、今月に入るとベッドに半身起き上がった状態で面会時間を過ごすことが多くなっている。
月が変わり、市内の雪もあらかた溶けつつある。

タクミの部屋は個室なのでボリュームを押さえればラジオも流せる。ヒット曲をBGMに他愛のない会話をしていたとき、ふいにタクミが手で会話を遮った。
≪・・・we are young So let’s set the world on fire・・・≫
「この曲のここだけ、好きなんだ、若さがあれば何だってできるって」
サビが終わるとタクミは説明してくれた。ベッドの下に無造作に置かれたパソコンの筺体にこころなしかヒビが入っているのを横目にしながら、私は曖昧に頷いた。
「ところで、ナカミナさんだっけ? 宛先ってどう書いてるの?」
話題に困ると私はタクミの”ラブレター”を使うことが多い。自虐的だと我ながら思う。
「えっと、事務所の住所だっけかな、を書いてるよ」
珍しく歯切れの悪い回答。
「さては、お母さんに任せっぱなしだな」
タクミは悪戯が見つかった少年のように笑った。その意味に気付いたのは週末だった。

いつものように部屋に入ると、タクミは不在で代わりにお母さんがベッド周りの掃除をしているところに出くわした。
「あら、いつもありがとうね、アユミさん。タクミ、今検査入ったとこなの」
この一年で髪に白いものが混じるようになったタクミのお母さんとは、私とも小さいころからの知り合いだ。
簡易ポストからアイドルへのラブレターを回収すると、お母さんはそれをベッドの下からひっぱりだした段ボールにゴムで纏めて丁寧にしまいこんだ。よく見るとそのゴムどめの束は他にも十個以上、箱にしまわれている。
「な、なんで、投函しないんですか」
お母さんは正確に両目を三度づつしばたいた。
「アユミさんには言ってなかったのね。この手紙ね、あの子が出さなくていい、出してほしくないからって」
同情で来てもらっても嬉しくないから、ナカミナさんだってこんな手紙貰っても困るだろうし、というのが理由らしかった。
あと三日でバレンタインデー、私はアイドルの事務所に電話をしようか、さんざん迷ったが何もできなかった。しなかった。
代わりにamazonでFUN.のCDを注文した。自分の注文ですら使ったことの無いお急ぎ便を利用して。

その日、タクミはベッドから起き上がるのもつらそうだった。後ろ手に隠さなくても包み袋に気付く気配がないほどに。
「なあ、今の俺ってセカチューの主人公そっくりじゃない、病名はちょっと格好悪いけどさ。こういう状況ってキセキが起きて、今にもそのドアからナカミナさんが駆け込んできそうじゃない?」
私は自分の靴のつま先しか見れなかった。
「・・・今日はナカミナさん来れないって」
「そっかあ、残念」
でも今だけは少し頑張って顔を上げるよ。
「代わりといっちゃなんだけどね、私から」

『好きです。』




sokyoさんのコメント
[f:id:sokyo:20130216000514p:image]

17 ● グラ娘。
●10ポイント

D


sokyoさんのコメント
[f:id:sokyo:20130216000515p:image]

18 ● グラ娘。
●12ポイント

書き始め 2/14 13:14


待つこと…………2時間。いくらなんでも待たされすぎだ。
ことの起こりは今朝の学校で。机の中に入ってたんだ。手紙が。
この公園で待ってますって。かわいらしい文字で。
誰かは多分わかってる。あいつしかいない。俺のことを好きになるなんて物好きは……。

だけど……、これはあまりにも……。遅い。
誰かの悪質ないたずらじゃないかって考えが頭をもたげる。

そろそろ諦めて帰ろうか……。
それでも、俺は未練がましく、あいつの家の方向へ向かって遠回りをして帰ることにした。
出会える可能性は皆無ではないだろう。

「ぐ、ぐらこ君……」
あいつだ。目に涙を浮かべて……、息も切れ切れ……
「どうしたんだよ、ずっと待ってたんだぞ」
「ごめん……なさい……」
「あの手紙……やっぱりお前なのか?」
「うん……チョコレート……バレンタインだから……作ろうと思ったんだけど……」
そういう目にはまたたくまに涙があふれだした。
「バレンタイン? チョコ? 作れなかったのか?」
「頑張ったんだけど……」
そういやこいつは極端な不器用さんだ。だからといってチョコレートが作れないなんてひどすぎる。
とは、口に出しては言えず。
「その気持ちだけで嬉しいよ」
「わ?ん……」
俺の胸にいきなり飛び込んで泣きついてきた。やれやれ。
「泣くなよ。人も見てるし……、お前の気持ちはわかったから……」
「でもチョコが……」
「チョコなんて……」
ふと、口元を見るとチョコレートが付いていた。涙で流れて首元まで溶けだしている。
「チョコならあるよ、味見でもしてたのか? ハッピーバレンタイン」
ぺろりと舐めたチョコレートは涙と混じりあって甘じょっぱい味がした。

書き終わり 13:22 5分じゃ無理!


sokyoさんのコメント
[f:id:sokyo:20130216000516p:image]

19 ● たけじん
●14ポイント

『月が綺麗ですね』


金曜日は、特別講義があって、校舎を出ると夕暮れだった。バイトまで時間があるから、フラフラと通用門へゆっくりと歩いていく。

見上げた空には、ほんのりと西の空に残る赤紫の層雲と、今光り始めた金星が輝いている。振り向くと、そこには、大きなオレンジ色の丸い物が浮かんでいる。

満月である。山の稜線にまばらに生えている杉の木が、丸いオレンジをギザギザに切り取っている。

顔だけ振り向いて、じっと満月を見ていると、背中を叩かれた。

「あ、ツキだ。」

顔を元に戻すと、茜色の雲に照らされて複雑な色に光る細い髪に縁どられたユウコの顔があった。形の良い眉から下は、ボクの落とす月の影に入っている。

「なあに?」

ちょっと左に傾げた首の後ろで、産毛が金色に光っている。おでこのオレンジ色と合わせて、複雑な色のハーモニーに見とれる。

「何見てんのよ」

ちょっとふくれた頬を、宵の口の風がなでていく。髪がなびく。
燃えさしのようにわずかに赤く光る雲に、細く長い髪が斜線を入れていく。

ボクはわずかに口を動かす。

「なあに?なんて言ったの?」

聞こえるわけはない。発音してないから。背中の月について、感想を述べただけだ。
ちょっと不満げなユウコに、ボクはこう告げる。

「見とれちゃったよ。」
「え」
「夕焼けが、きれいでさ」
「もう」

街灯が点き始め、ユウコを彩る複雑な色合いは消えていく。

「ツキだよ。ツキ」

ユウコはボクの後ろを指差す。君は、さっきも言ってなかったかな?

「ユウコ。」
「なあに」
「月見つけるたび、ツキだ!って言いすぎじゃないか?」
「だってぇ、ツキなんだもん」

これは、滑舌が悪いだけなんだろうか。ボクは別の意味がありそうな”ツキ”について、それ以上問いただすことはしなかった。ユウコが夏目漱石のあの言葉を知ってるとは思えなかったし。

オレンジ色の、丸くて大きな、綺麗な月が浮かぶ夜だった。


たけじんさんのコメント
15分かかった。

sokyoさんのコメント
ダーイ(。-ε?。)(。? .-。)ツキ☆

sokyoさんのコメント
[f:id:sokyo:20130216000517p:image]

たけじんさんのコメント
これは、7割実話だったり。

16-19件表示/19件
4.前5件|次の5件6.
関連質問

●質問をもっと探す●



0.人力検索はてなトップ
8.このページを友達に紹介
9.このページの先頭へ
対応機種一覧
お問い合わせ
ヘルプ/お知らせ
ログイン
無料ユーザー登録
はてなトップ