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グラ娘。 ●75ポイント ベストアンサー |
月からの贈り物
「ねぇ、お兄ちゃん? なに読んでるの? ねえってば!」
妹が僕と本との間に顔を割り込ませて聞いてきた。
そりゃあそうだろう。同じ質問を5回も6回も無視してたんだから。強攻策って奴に出られたんだ。
これじゃあ読書の続きができない。
仕方なく僕は答える。
「ああ、これは竹取物語ってお話」
「あぁ、あたしぃ聞いたことあるぅ、あたしもそのお話読みたい……。あ、でも難しかったら大変!
あたしにも読めるかなぁ? ねぇ、お兄ちゃん?」
「読めないことは無いと思うけど……、それよりわざわざ本を読まなくてもさ、竹取物語は無いけど、『かぐや姫』だったら、いくつか映像ライブラリが残ってたと思う。アクセスしてみる?」
「ライブラリかぁ、あたしアレ嫌いなの。なんだか目が回っちゃって。頭の中に直接送られてくるでしょ? あれ……酔っちゃうから……」
そういえばそうだった。せっかくの最新技術。情報を直接受信して自分の情報源として取り込むほんとに便利な機能なのに、こいつは苦手といって全然使わない。そのせいで、なんというか知性の発達が遅れている。
今の世の中、それこそ誕生から数ヶ月で成人並の知識量が得られる時代だってのに。
僕が、伊達と酔狂でわざわざ紙媒体の物語を読むのとはまた違い、妹は、情報の直接受信を受け付けない体質のため、やむなく読書漬け、映像漬けでの勉強に日々を、延々と繰り返している。しかし遅遅として進まない。
「じゃあ、絵本があったと思う。さすがに紙の絵本は手に入らないから電子版だけど……いいだろ?」
「うん、あたし『たけのとりのものがたり』読む?!」
いや、だから『かぐや姫』なんだけどね。『たけのとり』でもないし。
さっそく僕は、膨大な量のデータの中から『かぐや姫』を探し出し、妹のタブレットに送信してやった。
ピコーンと受信音が響く。
「ああ、来たよ?。読もうっと!」
これでしばらくはまた、静寂な読書の時間に突入だ。なんせ妹は読書が遅い。絵本であれ、教科書であれ、僕の5倍? いや、10倍以上の時間を掛けて精読する。いや、ほんとに精読しているのか定かではない。ときに読んだ本の内容について聞いたらちんぷんかんぷんってことも多いのだ。
「へー、お姫様じゃないのね……。んっ、3ヶ月で大人になったんだぁ……。ねえねえ、お兄ちゃん?
普通の人間って、大人になるまでに十年とちょっとかかるって言ってなかった?」
「ああ、普通はそんなもんだな」
「じゃあ、かぐや姫はちょっと特別なんだね?」
「そうかもね……。ほら、続きも読んじゃいなよ」
適当に相槌を打ち、妹を読書に促す。
「えっ! そっか、昔は人はみんな、月じゃなくって地球に住んでたんだ?。知ってた? お兄ちゃん?」
「そりゃあね」
「やっぱり、お兄ちゃんって物知りだねぇ」
それだけ言うと妹は読書に戻った。
数千年もの昔。地球は極度の異常気象と、量子発電システムの暴走によって、もはや人の住めない星になっていた。それでもわずかに生き残った人類。地球にしがみつき、細々と暮らしていた。
そして、地球を見捨てて月に移り住んだ別の人類。ふたつに分かれた人類。
それから何千年もの間、地球では文明を捨て、科学に頼らない原始的な生活をしながら何とか生きながらえていた。
一方、月では、科学文明を継続させ、どんどんと新技術を発展させていった。一見繁栄に見えた月の文明もその翳りを見せる。遺伝子操作などを行い、月の環境への適応を計ってきた人類だったが、やがて徐々にその数を減らしていった。
残っているのは妹ただ一人。
「面白かった! でもかなしいね。かぐや姫は月に帰っちゃうんだね?」
「月で生まれたんだからね。それは当然だよ」
「わたしも地球に行ってみたいな……。まだ誰か住んでるかな?」
「どうだろうね……。会ってみたい? 地球の人と?」
「うん! 会ってみたい」
地球に送った監視ロボットの映像によれば、いまなお地球には小さいコミュニティーがいくつかあり、人類はほそぼとだが、逞しく生活を営んでいる。
数ヵ月後、僕は妹を地球に送り込むだろう。最後に残された月の人間を地球に還す。それが僕の役目だ。
今まで幾人もの人々を人工授精、培養ポットで創造し、育ててきた。その誰もが病弱で、厳しい環境で暮らすに堪えない身体を持ってしまっていた。
そんな中で生まれた妹。僕のDNAを半分受け継ぐ妹は、おそらくは地球での環境にすら耐えられる奇跡のかけら。
読んでいた竹取物語は終盤にさしかかっている。帝が不老不死の薬を焼いてしまった。
『カグヤプロジェクト』は動き出す。そしてカグヤ姫は、二度と月に帰ってくることはないだろう。
地球に根を下ろし、地球人として暮らすのだ。
妹には地球で幸せを見つけてもらう。
それを見届けたら……僕は……量子コンピュータの脳と機械の身体を持つ僕は、自身の機能を停止させるだろう。
あまりにも永く生き過ぎた。あまりにも多くの人間を死においやった。
だから、この永遠の命ともお別れしよう。
帝が、不老不死の薬を焼いてしまったように。
?fin?
本日、月の出る頃に終了します。
望月では有りませんが、立ち待ちの一日欠けです。
横浜では、19:03月齢16.3です。
うちの課の若竹輝子を知ってるの?ああ、営業の石上さんから聞いたの。彼って、あれでしょ。腰骨やられちゃったんでしょ。有名だもん、うちの課でも。
輝子は美人かって?そうでもないわ。フツー。おっとり癒し系ってやつ?あたしなんにもできませーんって、お姫様かよって感じ。でも男ってそういうのに弱いのよね。
だけどさ輝子って、石上さん以外に四人も男がいたのよ。五股よ五股。
信じられる?全員に貢がせといて、あげくにみぃんなフッたんだって。
噂だとかじゃないわよぅ。本人から聞かされたの。頼みもしないのにペラペラしゃべってたわ。癒し系なんてとんでもない猫かぶりよ。
たとえばさ、レアものの毛皮のコートおねだりして、海外から取り寄せさせたけど、あとで偽ブランドだったってことがわかってさ。コートは即、燃えるゴミ直行。男もポイしただとか。一点もののジュエリーをオーダーメイドでつくらせただとか。
石上さんだって、なんとかいうパワーアイテムを取るためにロッククライミングしてて、事故って、腰を痛めちゃったんでしょ。なんか必死すぎて哀れよねぇ。
最近の輝子?社長の御曹司に気に入られてるわ。相当貢がせてるんじゃないかしら。でも、玉の輿に乗る気は全然ないみたい。近々退社して、実家に帰るみたいよ。御曹司がなりふり構わず引きとめてるらしいけど、無理っぽいわね。なんか「迎えが来る」って匂わせてたから、地元に本命の彼氏がいるんだと思うわ。
彼女の実家?さあ、どこだったかしら。三重県だったかな。確か言ってわ、「津市に帰る」って。