No.9回答のゾロアさん、ご卒業おめでとうございます。
先日、私も「そつ業証書」をもらいました。
焼酎業証書(そつぎょうしょうしょ)25°1800ml[芋焼酎]
そう、「そつ」は焼酎のことなんですね。(※お酒は20歳を過ぎてから)
今でこそ芋焼酎が大半をしめる薩摩焼酎ですが、甘藷から焼酎が造られるようになったのは実はわりと最近です。甘藷伝来以前は米や雑穀などから造られる焼酎がメインでした。清酒醸造の副産物である白糠からつくる白糠焼酎なんかもありました。
薩摩人はもともと焼酎のことを「そつ」「しょつ」などと呼びますが、白糠焼酎などの米原料を用いたもののことを「ぬかそつ」「ぬかり」などと呼び習わしておりました。焼酎が切れると「おい、そつがなか」とか「ぬかりがないでごわす」なんて言ってたらしいです。
そう、もうお分かりですね。薩摩では古来「そつがない」と「ぬかりがない」は同義であり、いずれも「焼酎がない」の意味であったのです。そして副次的に「抜かりがない」の意味でも「そつがない」が混用されるようになりました。まあ一種の駄洒落です。これが日本全国に広まったのが幕末に薩長連合軍が日本列島を東進した頃だと言われております。
薩摩地方ではその後、甘藷を原料とする芋焼酎がメインとなり、米原料系焼酎のことを「ぬかそつ」「ぬかり」と呼ぶ習慣もだんだんと失われていきました。言語文化が発祥の地において既に失われてしまったために、その由来が今となってはよく判らなくなっている、というのはよくある話です。
日本語の個数の数え方で、ひとつ、ふたつ、みっつ… というように数詞の最後に「つ」を付ける用法がありますが、ここのつ、の次は「とお」となり「つ」はつきません。さらに11個目からは、とおあまりひとつ、とおあまりふたつ、と続いていきます。
古代日本語の数体系
ここで、十の倍数については「つ」はつきません。しかしごく稀に「十つ」「二十つ」のように「つ」をつけて表記してしまう人が現れ、音読しようとする人を困惑させます。
【10つ】 「○○を成功させる10つの方法」みたいなものがありま… - 人力検索はてな
このように10の倍数を数えるときに「つ」をつけてしまうことを「そつ(十つ)」という概念で表し、そういう紛らわしい使い方をしない人を指して「そつがない」といいます。「そつ」が単独で使用されることはなく、「そつがない」とその存在を否定する文脈でのみ使用される言葉です。そつがある、とも言われません。なお「十つがない」などと漢字で表記すると十という漢字自体に「つなし」という読み方があるため紛らわしいので、通常はひらがなで「そつがない」と書かれます。
むかし、なにわの北にかごいけのしょうにんといふ者あり。
あるときはかりごとをめぐらすとて御ふしんを蒙り給ふ由聞こえしかば、心ずから陳じ申すとて東国へ下向し給ふ。然るにしょうにん参り、けいじそつい受くるもやとて言葉なし、とぞたびたび申し給ふ。
物知らぬことなのたまひそと人びとあさましがりて、そついなる言葉いやしうつかひたるこそ、よろづのことよりまさりてわろけれ、とぞののしる。
然うしてのち、ものよく言ひ通れるをそつなしとぞ言ひ伝えたる。